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【選評】川を下る
- 雪雪
2020/08/14 (Fri) 08:07:31
遅くなってしまいました。申し訳ありません。
◎川を下る13
> 大人達が材木を筏に組むところを眺めている。
これが異世界の物語であることを示すような、好奇心をそそる不可思議な習俗・風物があるでもなく。
どこか特定の地域・時代であることを示すような知的に刺激的な情報もなく。
はじまったときの器からこぼれる意外性もなく。
ありふれた湊の、ありふれた人達の、ありふれた心情の、ありふれた営みで、はじまって終わる。
さらっと読み終えて、初読の際はさして印象も残らなかった。
けれど、読み返すごとに素晴らしくなる。
神の宿る細部は読者の想像にまかせ、多孔質の、ふわっとした、軽い持ち重りの物語だ。
五連あるが、それぞれの連が他の連を修飾し、物語の描かれていない部分を、読者に描かせる。
この物語の時代感とスケール感から類推すると、「海路を経て至る大きな町」は、異国とは言わぬまでも異文化圏であるように思われる。母の持ち物である「カンザシ」がカタカなのは、外来語だからであろう。
母はこの湊で、孤立してはいないが、溶け込みきってもいない。父は大きな町の話をするのに、母はしない。
読み返すごとに、端々が響き合って、物語がふくよかに奥行きを増してゆく。
花木が芽吹き、ぽつぽつと花を咲かせ、やがて満開になる様を見るようで見事である。これぞ物語を読む快感。
×<川を下る7>
>私の生業は苗字占い。
すごくおもしろいアイディアだと思う。けれども川が合流することには、いろいろと応用が効く興味深い様相が豊富にあるはずで、もっともっと掘れる! もったいない、ということで逆選を。